130386Raのスタートアップな日々

2010年からスタートアップのサポーターとして活動してきた記録と、サポーターに飽き足らず50歳を過ぎてプレイヤーサイドに身を投じたへそ曲がりなおじさんがスタートアップについて諸々お伝えしているブログです。

STARTUP JAPAN TOUR IN GIFU 参戦記 ~地方でのスタートアップイベントを考える~

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ちょっと古い話になるが昨年の12月19日に岐阜ソフトピアジャパンでStartup Japan Tour inGifuに参加した。Startup Japan Toureはサムライインキュベートが全国の地方都市を行脚する、スタートアップのためのイベントだ。今回のイベントの詳細については、ASCIIさんの以下のレポートをご参照。

http://ascii.jp/elem/000/001/097/1097213/

地方のスタートアップイベントについては以下の投稿でもその意義について書いた。今回このイベントに参加してさまざまな気づきがあったので参戦記として今回続編ともいうべきものを書いてみた。

 

ujiis.hatenablog.com

 今回の岐阜のイベント構成は以下の通りだ。

第一部 基調講演 西濃運輸 田口社長

第二部 パネルディスカッション

   モデレター:サムライインキュベート 榊原社長

   パネラー :DOKIDOKI INC 井口社長

         株式会社Misoca 豊吉社長

         バイザー株式会社 米田社長

第三部 スタートアップピッチ

 

「スタートアップがオーナー系大企業経営者の話を聞く意義」

今回、岐阜での開催に主旨賛同をされた西濃運輸の田口社長が講演をされた。印象深かったのは、現社長は三代目でありながら創業時の話をよく知っておられるということだ。同社の基本理念の一つとしているのが「福寿草経営」だ。同社のHPにも下記のように記されている。

「踏まれても 踏まれても 強く野に咲く福寿草」どんな試練にも耐えうる精神です。創業者・故田口利八名誉会長の座右の銘でありますが、同時に将来に向かって力強く進む不撓不屈の魂そのものです。

これは、田口社長だけでなく全社員が共有している理念なのだという。田口社長は、スタートアップへのエールとして、社員が長く共有し続けられる理念を作り、それを継承し続けることの重要性を述べておられてた。

こういう理念継承の話はオーナー系の企業であるからこそ、引き継がれている話ではないかと思う。オーナー企業とスタートアップはやや対極にあると言っても良い存在だと思う。しかし、企業をスケールさせて長く続けていくためには必要な事だ。日々を生き抜くことに全精力を注いでいるスタートアップも少しは立ち止まって理念づくりという事を考えてみた方が良いのではなかろうか?また、このような話を企画を実現させた今回のサムライさんのチャレンジャー精神に感心するとともに、地元貢献のためにこういった場に出てきてフランクに話が出来る西濃運輸の田口社長の素晴らしさも讃えたいと思う。

こういった地元愛を源として、より濃密で良いつながりを産み出せる環境は地方ならではではないかと感じた。

西濃運輸の創業者・故田口利八名誉会長の創業時の苦労話は素晴らしい話でここでは書ききれないような時代に左右されないスタートアップの壮絶な戦いとマインドセットの良いお話でした)

 

東京でなければStartupが成功出来ないというのは幻想?』

第二部のパネルディスカションでは、全部をこの人が持って行ったと言っても過言でない。パネラーの井口氏だ。(DOKIDOKI INC代表 Telepathya・頓智ドット創業者)

f:id:ujiis:20151219150205j:plainサムライインキュベートの榊原さんが、モデレターを務めたこのセッションでの榊原さんと井口さんの二人の掛け合いは非常に興味深かった。

井口さんが頓智ドットを立ち上げた時、日本の多くのVCは、ドコモのiモードとの関係が希薄という理由で軒並み出資を断ったそうだ。井口さん自身は、すでに現在のようなApp Storeでアプリがどんどん流通するような世界を予想していたためドコモの関係関係構築には興味がなく、その後Techcrunch50での「sekaicamera」の発表を通じて大規模調達に繋げていった。その資金調達がうまくいかない時に無償でオフィスを提供し、その後もさまざまなビジネスに協力してくれたのが岐阜県大垣市だったそうだ。こういった血の通ったサポートを産み出せるのは地方ならではなのかも知れない。

 

他に、井口さんの話で興味深かったのは、シリコンバレーは実生活の点では全く効率的ではなく非常に不便な事が多いのだという。対しては東京は、何事も効率的でコンビニなど世界中でも類がないくらい便利で効率化され尽くしていると言ってよいというのだ。一見すべてが揃っているこの環境がイノベーションには不向きなのではないか?というのだ。シリコンバレーは、非常に優秀なエンジニアが集まっているが不便で何とかしなければならない問題が目につくため、それを解決するためにテクノロジーを生かすという土壌があるのだという。そういう意味では効率的な東京より非効率な部分が残っている地方の方がイノベーションを起こすチャンスが存在しているのではないかという事である。

また、井口さんは「地方発、東京経由、世界へ」という道のりは必要ないのではとも語っている。日本スタンダードで成功するとその成功体験が海外マーケットにチャレンジする際に足かせになる可能性も否定できないというのだ。シリコンバレーに限らず海外でチャレンジするには日本で成功する以上の頑張りが必要だからというのがその理由だ。世界マーケットで勝負したいのなら、鼻から覚悟を決めて地方から直接世界へ出ろということだろう。

 

『情報が不足している事が地方でスタートアップする事の最大のメリットでありデメリット』

 

今回のパネルディスカッションの井口さんの他のパネラーは、岐阜、名古屋をを拠点とするスタートアップだった。(スタートアップというにはやや成長しすぎ?)

このお二人が言っていたのは、情報が少ない事が地方のデメリットだと主張しておられた。しかし、反面情報が少ないからこそ地に足をつけてやるべきことを着実にやってこれたことも指摘している。この部分はなるほどと思った。榊原さんからも「東京の方が地に足がつかないケースがある。必要以上に情報に敏感になって(どこが資金調達をしたとかM&A事業を売ったとかが気になり)事業に集中出来ないとか、経営者が情報に惑わされ、メンタルの部分で異常をきたすなどの例も散見する。」とのご意見もあった。

 情報の中には、事業のフェーズや業態によりそれらが必要なものもあれば不必要なものもあり、多すぎても少なすぎても困るということなのだろう。そういった意味では地方のスタートアップはベースを地元に置きながら、出張ベースで月に1~2回のペースで東京に情報収集やネットワーキングしにいくのが良いのではなかろうか?

どうしても、プロダクトが一通り完成して資金調達や人材獲得を効率的に行なうためには、日本でそのリソースが一番豊富な東京で活動するのが効率的だから、その移動コストや時間的ロスを考えると地方発スタートアップが東京へ拠点を移したくなるのは分からないではない。

しかし、事業の解決すべき源泉が地方に存在しているのならそのあたりのデメリットに目をつぶってでも地方に居続けるというのは悪くない選択だと思う。特に昨今のリモートワークのツールを有効に活用すれば、逆に有機的で効率的なコミュニケーションを形成できるかも分からない。

 

『で、地方でStartupのイベントを開催する意義とは』

井口さんのご指摘にもあるように、東京でなければStartupが成功出来ないというようなことはない。では、地方が最適かというとやはり情報や資金調達、人材確保などの面でいくとやはり不利は否めないのかも知れない。しかし、こういったイベントを通じて情報を得られるネットワークを構築したり、刺激を受けることによりそれらは多少改善されるのではないかと思う。

また、東京や他の地方から参戦する人には地元の人では感じられない「気づき」があるはずだ。それは、人の温かさだったり、料理の味だったり、歴史だったり、地域特有のコミュニティーだったりすると思う。それは、SNSやネットの情報では分からない実際にその土地に行ってみなければ感じ取れない空気感のようなものだ。地方でのスタートアップイベントは、これらを多くの人に味わう場を提供するだけでも大きなメリットに繋がるのではないだろうか?

 

地方という言葉を連発していますが、今回は東京以外の土地(大阪も福岡も名古屋も福岡も、もちろん京都も)をそう呼んでいます。あしからず。

で、下は岐阜に行って触れてきたすんごいやつ。

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